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ミミちゃんのこと~数分だけの、わたしの猫。

これから書く話は、悲しくて残酷なお話です。



職場の昼休み、オフィス近くの地域猫をめぐる散歩をしているわたし。
昨日のことですが、初めて見る猫に会いました。

遠くから見て、シルエットがややおかしい。
嫌な予感を胸に、近づいてみると……
目も鼻も口もどうなっているのか分からない、顔が腫れあがってドロドロの猫でした。
顔は遠目に見てもおかしなくらい前に出っ張っていましたが、
身体は逆に、骨と皮で、毛もはげて、ぼろぼろ。
呼吸さえもままならない様子…。
描写するのがためらわれるほど、正視に耐えない状態でした。
このままでは、あと数日生きられるかどうか……。

ご飯を食べるかと、持ち歩いているフードをあげてみましたが、反応なし。
目が見えず、鼻も効かないので、フードを置いたことが分からないらしい。
耳だけは聴こえているようだったので、ボウルに水を入れてきて、ぴちゃぴちゃと鳴らし、
口元へ持っていってみると、飲みたがっているようですが、飲めず……。

どうしたらいいものか。
迷いながら、昼休みが終わったので一度はその場を去りましたが、
出来ることをしてあげよう、病院へ連れて行こうと決め、仕事の後戻ってきたらいませんでした。
意外と動ける動ける体なのか、または誰かが病院へ連れて行ってくれたのかも、と
かすかな希望を持ちつつ、今日も様子を見に行ったところ、いました。

もうすでに死んでいるのかと思ったほど、横になって動けなくなっていました。
急いで、近くの病院へ。
持ち上げた猫の入った箱は、まるで空っぽのように軽くて……。
それでも、点滴を打ったら、元気になるかもしれないと思っていました。

病院に着いて言われた言葉は、おそらく上あごに出来た癌であること。
それが顔全体を蝕んで、飲むことも食べることもできないこと。
それまで、表面的なケガかと思っていたのですが、望みがないことを悟りました。
獣医師さんの口から出た言葉は、予想通りの「安楽死」……。

わたしは、他の命の終わりを勝手に決めるのは、基本的にしてはいけないことだと思っていて、
この言葉を聞くのを恐れていたのですが、水も飲めずに倒れて死を待っている姿があまりにも辛そうで、心を決めました。

獣医師さんは、猫にもわたしにも、精一杯の対応をしてくれたと思います。
のどが渇いたまま死なせたくないと思って、「最後にお水をあげることはできますか?」と訊いたら、
スポイトで水を飲ませてくれました。

処置の準備の間、猫の体に触れて、「だいじょうぶだよ」と話しかけました。
名前を呼んであげたいと思い、「ミミちゃん」と呼びました。
目も鼻もなくて、耳を頼りにしばらく生きていたと思うから。大切な耳の、ミミちゃん。
「ミミちゃん」と呼びかけると……横たわって、顔を覆っていた膿が流れて、
辛うじて左の眼が少しだけ開いていて、金色の真ん中の瞳孔が少し大きくなったのが見えました。
一生懸命、わたしのことを見ているようでした。

それから処置が始まり、薬が入ると、苦しげな息がすぐ、静かになりました。
弱っているから、薬がすぐ効くのだと言われました。
動かなくなったミミちゃんを見て、悲しいよりもほっとしました。
本当はもっともっと、たっぷり水を飲ませてあげたかったけど……もう渇きもないんだよね。

ミミちゃん。
ミミちゃんは黒猫の男の子。
胸のところが少しだけ白くて、体重は2.3㎏しかありませんでした。
本当は、5kgくらいあってもおかしくないはずだけれど。
こんなになるまで、がんばって、強い子だったんですよ、と言われました。
本当に、がんばったんだね……。

処置の途中、先生が気がついたことですが、ミミちゃんの耳には、番号が振ってありました。
これは、ふつう、実験動物にされるものだそう。
もしかしたら、癌も関係があるかもしれないとのこと。

ミミちゃんは、もしかしたら長いこと、小さなケージで飼われ、
いろんな薬品を塗られたり打たれたりして発病し、最後は捨てられてしまったのかもしれません。
外にどれくらいいたんだろう。
わずかな間だとしても、太陽の下を自由に歩けたことは、幸せだっただろうか。
それとも、癌を抱えた体では、ただ辛いだけだったかな……。

安楽死に対する考え方が変わったわけではないけれど、
病院へ連れて行ったことで、良かったことがありました。

まず、ケガではなく病気だと分かったこと。
(誰かに虐待されたのかと思っていたので……。)
少しでもお水を飲ませてあげられたこと。
触って声をかけてあげられたこと。
最期を看取れたこと。
それと、供養してあげられること。

初めに病院へ連れていくのを迷ったとき、安楽死への抵抗のほかに、
本当は見なかったことにしたい気持ち、向き合う辛さがあったと思います。
でも、未だに忘れられない、子どもの頃助けられなかった子達を思い出して……
わたしは絶対に、この子を死ぬまで忘れられない。
今、大人で、出来ることがあるのだから、しようと思いました。
そして、出来たこと、良かったと思っています。
最期までがんばったミミちゃんに、申し訳ない気持ちはあるけど……
これが罪ならわたしは背負うよ。
それでも、楽にしてあげたかった。

ミミちゃんは、名前をつけたときから、ほんのわずかな間だけですが、わたしの猫になりました。
だからここに、記録を残しておきます。

ミミちゃん、次に生れてくるときは、猫でもなんでもいいけれど、幸せな子として生まれてきてね。
今はただ、飢えも渇きも痛みも恐怖もなく、安らかでありますように。
by diastella | 2012-12-12 15:28 | こんな日でした。